2014/01/08

平成26年初春歌舞伎公演:通し狂言「三千両初春駒曳」(さんぜんりょうはるのこまひき)

辰岡万作=作『けいせい青陽●』より (●は集に鳥)

尾上菊五郎=監修

国立劇場文芸研究会=補綴

通し狂言「三千両初春駒曳」(さんぜんりょうはるのこまひき)六幕

 

序   幕   高麗国浜辺の場

二幕目   第一場 御室仁和寺境内の場   

      第二場 同    御殿の場

三幕目   第一場 今出川柴田勝重旅館の場

        第二場 粟田口塩谷藤右衛門内の場                 

      第三場 元の柴田旅館釣天井の場                  

四幕目   住吉大和橋馬切りの場

五幕目   阿波座田郎助内の場

大 詰    紫野大徳寺の場

 

尾上 菊五郎 / 中村 時蔵 / 尾上 松緑 / 尾上 菊之助 / 河原崎 権十郎 / 市村 萬次郎 / 市川 團蔵 / 坂東 彦三郎 / 澤村 田之助 ほか

150年ぶり!の復活上演だそうな。

いやはや本当に伝統芸なんだ。国立劇場ならではの演目。

現代風に少しアレンジ(補綴)されているそうだが、150年前の舞台を観た人はいないものね…。

 

基本の話は憤死した織田信長の後継者争いだから、題材としては三谷幸喜「清須会議」と同じだが、ぶっ飛び方がぜんぜん違う。歌舞伎の方が数段話がべらぼうになっている。

 

講談(小説?)の作り話「宇都宮吊り天井」も盛り込まれ、高麗国のお姫様(菊之助)や石川五右衛門まで登場し、織田家家宝の刀探しも加えられ、面白くなるなら何を加えても良いという闇鍋的ドラマ構成!

まさに、庶民の娯楽、歌舞伎の魅力。

 

敵も味方もそれぞれに「実は…」というどんでん返しが用意され、「実は、実は…」にそのうち訳が分からなくなるが、まあ、真剣に筋を追ってもしかたがないような話でもある。

 

六幕九場もあり、あちこちに見せ場が用意されているが、中でも三幕目第三場の「元の柴田旅館吊り天井の場」は真柴久吉に抵抗する柴田勝重(勝家=尾上松緑)の計略により、舞台に作られた旅館の大きな部屋の天井が落ちてきて真柴の軍勢が圧死するというスペクタクル!

これはなかなかの見応えあり。

新劇の手抜きで!粗末な舞台装置と違って歌舞伎は舞台装置の点でも見せ物になっている。

 

また、タイトルに援用されている第四幕「住吉大和橋馬切りの場」も楽しい一幕で、これは単独でも上演されているそうだ。

 

真柴久吉(羽柴秀吉のこと)が信長の弔いに使う予定の三千両を積んだ馬ごと石川五右衛門の家来に盗まれたが、そこに浪人が現れ、盗人たちをバッタバッタと切り倒す。その後駆けつけた真柴家の重職たちが浪人に金を返せと言うが、この浪人こそ「実は!」全篇の主人公と言ってもよい小田信孝(菊五郎)*で、小田家の為に使う金なら信長の息子である自分がもらってもよかろうと言い放ち、ひれ伏す重職たちを尻目に三千両を積んだ馬を曳いて花道に消える(彼は廓通いの資金に窮していた!なんというキャラクター設定だ!)。

 

この斬り合いのアクションが、今風に言えばコントショーのようで、大いに笑えるのだ。

いやはや「初笑い」でもあった。

 

余談

①終演後、役者たちが舞台に残り、お正月のサービスとして客席に向かって「タオル」を投げてくれるのだけどいくら手を伸ばしても三階席には届かないのが残念!

②菊之助は、やはり器量よしだ。今回は、高麗の姫君のほかに大工職人にも扮していたが、やはり女形の方が似合っている。

 

*「小田」は「織田」のことだが、名前はその筋の命により大名家の実名は使えないので変えてある。

そうは言っても「小田」が「織田」を指しているくらい誰にでもすぐ分かってしまうというのがおかしい(大石内蔵助が「仮名手本忠臣蔵」で大星由良之助になっているのと同じ。)。

カタチはお上に従順だが、戯作者たちは反骨している。でも、幕府のお役人もそれを黙認して楽しんでいるのがおもしろい。

 

因みに映画「清須会議」では「信孝」は坂東巳之助、「勝重」は役所広司でしたね。

 

♪2014-02/♪国立劇場-01